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レモン月

■第1章■



「よいしょ。」

引越しの片付けがひと段落して2階の窓から外を見ると

いつの間にか夕暮れ時になっていた。

涼香はひとつのダンボールの中からパステル調の花柄の小箱を取り出した。

少し埃のかぶった箱の表面を手で拭うとそっと蓋を開けた。

懐かしい文字の上にポタリと汗粒が雫となって滲みを作った。

「ふぅ...暑い、暑い。」

涼香はそういうと1階へと降りていった。

先ほど荷解きが終わって、茶箪笥に大事にしまっておいたひとつの沖縄硝子の

グラスを取り出し大粒の氷と冷えた麦茶を注ぎいれた。

トントントントン.....

ゆっくりと冷えたグラスを握り締め階段を登っていく。

西日の差す窓辺に腰を下ろし美しい夕日を見ながら

ゴクリと麦茶を飲むと汗ばんだ額にグラスを押し当てた。

「冷たくておいしぃー」

ほっと、一息つきまたあの箱をじっとみていたが思い返したように蓋を開け

何通かの手紙のうち先ほどの字の滲んだ手紙を手に取ると中の手紙を取り出した。

「ほんとに...懐かしい~..」

右に傾いた不器用で繊細な文字がそこには並んでいた。

大学時代に付き合っていた大樹のものだった。


   * * * 


大樹とは大学4年間ずっと付き合っていた。

ラグビー部の大樹は1年の頃から体が大きいということでラグビー部にスカウトされ

努力と持ち前の統率力でメキメキ頭角を現し2年で主将を務めるまでに成長していくほどの

バイタリティーに満ち溢れたタイプだった。

涼香との出会いは大学に入って間もないとのあるカキ氷の店だった。

大学近くにあるその店は落ち着いたブラウンの木造の建物で

色とりどりの沖縄硝子の器に山盛りに氷を盛りつけ

ソフトクリームや白玉、フルーツなどをトッピングできる人気の店だった。

いつも多くの人で賑わうはずの店内にはその日涼香一人しかいなかった。

「レモン水に...フルーツのトッピングでお願いします。」

「あいよ~」

真っ赤な地に沢山の水玉模様のグラスと黄色い氷の山とのコントラストがとても美しく

まるで紅葉の山を見ているようだった。

シャク、シャク、シャク、シャク....

涼香は器用に山を崩すと口に運んでいった。

1/3くらい食べた頃だろうか、一人の体の大きな青年が入ってきた。

「いつものー!宇治金時に白玉でね!」

日に焼けた体に白いシャツを腕まくりした青年はドカリと涼香の斜め前に座った。

間もなくして涼香の倍くらいの白い水玉模様の器に山盛りの宇治金時と

沢山の白玉がトッピングされた宇治金時のカキ氷が運ばれてきた。

”うわーすごい量!”

ちらりと涼香が見ると彼と目が合った。

ニコリと笑うと白い歯がさわやかな笑顔がとても素敵な青年だった。

ワシ、ワシ、ワシ、ワシ...

彼が豪快に宇治金時を食べだした。

すると、コロコロコロ...と白玉が涼香の目の前に転がってきた。

「す、すいません!!」

彼は慌てて白玉をつまむと口にほおり込んだ。

そんな事が3度起こり、驚きが笑いに変わりいつしか二人でゲラゲラと笑い転げていた。

偶然、帰り道が一緒だった二人はいつしか付き合うようになっていた。

冬になるとその店はぜんざいを出していて、

いつしかそこがデートコースのひとつになっていた。

二人は2年になったら沖縄旅行に行こうと計画を立て始めた。

ラグビー部の練習も忙しかったが大樹は涼香のことをとても大事にしていた。

二人の出会いを記念して沖縄硝子の体験ツアーに参加しようと思っていたのだった。

そんな時、カキ氷屋の奥さんが妊娠してアルバイトを募集していたので

迷わず涼香はアルバイトを決め働きだした。

涼しげな瞳で持ち前のチャキチャキとした江戸っ子らしい物言いに

涼香はいつの間にか看板娘になっていた。

ピザの配達のバイトをしていた大樹も一休みしに店に立ち寄り楽しく過ごした。


   * * * 


そして、いよいよ旅行当日。

旅なれた彼がほとんどの旅の予約をこなしてくれて荷物も持ってくれていた。

初めての二人旅行に二人ともドキドキしていた。

飛行機の中ではパンフレットや旅行本を片手に二人でにらめっこ。

どこの硝子店にしようかずっと迷っていたのだ。

「あ..そういえばカキ氷屋の親父がなんかくれたよね。」

「そういえば...お餞別とはまた別に袋に紙が入ってたね。」

袋からキレイな桜色の和紙が出てきた。

そこにはある硝子店の名前が記されており、

この店の硝子を店で使っているとも記されていた。

二人は迷わずその店に行くことを決め手をつないだままつかの間の眠りについた。

沖縄の海は驚くほど綺麗で目に眩しく二人は大はしゃぎして

ホテルのベランダで大きく深呼吸した。

「気持ちいいね~~」

「早く海!行こうよ!」

二人は水着に着替えるとパーカーと短パンで海に繰り出した。

「大樹は海が本当に似合うよね!なんか、海の青いイメージだなぁ。」

「そう?」

「ね、私は?私のイメージは?」

「そうだなぁ。赤と黄色かなぁ~。」

「ほんと?私青とか緑って言われる事が多かったんだけどなー。

 ほら、私性格が男っぽくてデニムばっかり履いてるから。

 水着もエメラルドグリーンだしね!

 でも、なんだかうれしいなぁ、女の子に思ってもらってるみたいで。」

「え~?もちろんでしょー?女の子だから付き合ってるんじゃん!」

二人は海辺でじゃれあい、エメラルドグリーンの海で泳いではしゃぎあった。

夕暮れになると二人は手を繋いで海岸線をあるいて岩場の影で熱いキスをした。

「しょっぱいね。」

二人でクスリと笑い、またキスを続けた。


   * * * 


翌朝、二人は早めに目が覚めるとベランダに出て日が出てくるのを

目を細めて見つめていた。

「俺ね、こんなに人を好きになったの初めてだ。」

「え..?」

「こんなに大事な人ができたのって初めてなんだよ。」

いつになく大樹の目が真剣だった。

「わたしも、大樹が大好きだよ。」

朝の静寂な空気が素直な気持ちを引き出したのかもしれなかった。

いつの間にか涼香の目には涙が浮かんでいた。

「そんな事急に言うからうれしくって涙が出てきちゃったじゃんかぁ。」

大樹はまたいつものようにニコリと白い歯を見せてやさしく微笑んだ。

「おなか....空かない?」

「空いたね、ちょっと早いけど食べに行こうか。」

ビュッフェスタイルの朝食に行くと外国人カップルの他には涼香と大樹だけだった。

スクランブルエッグにカリカリのベーコンにトースト、オレンジジュース。

取り立てて特別なものではなかったけれど、二人には格別においしく感じられた。

「これおいしいね。」

どちらともなく二人の口からはそんな言葉が出てきていた。

部屋へ戻るとカキ氷屋の店主からもらった紙の電話番号に大樹が電話をかけた。

体験教室はやっていないが、店主の紹介だから特別にやってくれると快諾してくれた。

二人は荷造りすると鍵をフロントに預け外へ出た。

レンタカーを借りて大樹の運転でその店に向かう。

車中はどんな硝子を使うか、どんなものを作るかで話が盛り上がる。

「やっぱさ~グラスでいいでしょ!二人でオリオンビールで早速乾杯できるしさぁ!」

涼香はお皿もいいかな、と思っていたが大樹の一言でグラスにしようと決めた。

店へ着くと大樹は店主とすぐに意気投合して早速見学、体験できることになった。

そして、車中で話し合ったようにお互いのイメージで大樹は涼香に

涼香は大樹用にグラスを作りあいっこしようという事になった。

涼香は持ち前の器用さであっという間に

エメラルドグリーンの薄い大きめのグラスを作り上げた。

一方、大樹は肺活量がありすぎて何度も失敗して、ようやくおかしな形だけど

赤がだんだんに黄色に変わるグラデーションの厚い重めのグラスを作った。

「も~大樹~これにビール入れたら重くて持ち上げられないよ~」

「んなことないでしょー!」

「なんだか、おじょうちゃんの方がグラス作りには向いとるようさね~ははははは!」

とても楽しい体験教室となった。

二人は硝子屋の店主に礼を言うとまた車に乗り込みもと来た道を引き返した。

大樹は汗ぐっしょりで車の窓を全開にして風を浴びて心地よさそうだった。

「あー早くヒール飲みてー!!!」

大声で叫ぶ声が風に遮られる。

「わーたーしーもー!!」

二人で窓の外に顔を出し大声で叫び笑いあった。

レンタカーを返すとホテルのスタッフに聞いていた

テラスでおいしい沖縄料理食べられる店へ歩いて向かった。

料理店のスタッフに頼んで、オリオンビールを互いの作ったグラスで

飲める事になった。

「乾~杯~!!!」

「おいしぃ~!サイコー!」

「めちゃくちゃおいしいねー!」

本当におなかの底からおいしいと感じた瞬間だった。

二人はたわいのない話をしながらつかの間の沖縄ライフを楽しんだ。

帰りの飛行機の中二人はぐっすりと眠り込んでいた。


   * * * 


そんな思い出を胸に時が過ぎ3年の秋を迎えたある日突然の悲しみが涼香を襲った。

涼香の小さい頃お世話になっていた富山の叔母さんが

重病で倒れたという連絡が入ったのだ。

涼香は荷物をまとめると直ぐに電車に飛び乗った。

叔母さんには子供がいなく、だんな様も2年前に他界しており天涯孤独の叔母さんを

涼香は放っておくことができなかったのだ。

そこで、看病しているうちに献身的な看護を目の当たりにした涼香はいつしか

看護婦の道を選ぼうと心に決めていた。

大樹は決まって9時になると電話をしてきて涼香や叔母さんの様子を気遣っていた。

学校の様子や勉強の進み具合なども細かく報告してくれ、手紙をよこすようになっていた。

大きな体には不似合いな細くて右に傾いた不器用な文字に涼香はいつも元気付けられ

涙を流しては手紙を抱きしめていた。

そんな事が数ヶ月続き、叔母さんも奇跡的に病気が改善し

退院、通院できるようになっていた。

涼香はようやく大学に復帰して残りの1年間を過ごす事となった。

しかし、涼香はいつまでも変わらない大樹の笑顔に癒されながらもいつしか訪れる

『別れ』に怯えるようになっていた。

3年の冬、二人でいつものようにぜんざいを食べていると大樹がふいにこう尋ねた。

「なぁ、たまに悲しい顔...することあるけどなんかあるの?」

涼香は見透かされてる思いがして大樹から目をそらした。

「なんでも、ないよ。ただ....」

「ただ、何?」

「大樹は、来年とか、就職活動とかどうするの?」

「そのこと?」

「うん.....」

「神戸の社会人ラグビー部から誘いが来てるから行こうかって思ってるよ。涼香は?」

「私は....私はね。」

長い沈黙が続いた後、息を飲み込んで一気に話し出す涼香。

「叔母さんが病気のときね、看病する看護婦さん達に感動したんだ。

 命に関わる仕事ってすごいなって思って。

 それで私も叔母さんみたいな重病の人を助けたいなって思ったの。

 それでね.....富山にいい看護学校があったから、実はそこに通おうと思ってるの。」

 一気に話し終わると上目遣いに大樹を見上げた。

「そっかー。なんとなく、そうかなって思ってたけど、うん。やっぱ、涼香お前すげーよ。

 大学終わって、また学びなおして人助ける事仕事にするなんてさ。

 涼香らしいよ。俺、応援する。」

「ありがとう!でも....そしたら離れ離れになっちゃうんだよ?寂しくないの?」

「そりゃあ....寂しくないって言ったら嘘になるけどさ、涼香の人生を俺は邪魔したくないよ。」

「邪魔だなんて、そんな事ないってばぁ..」

「あ、また俺泣かしちゃった??ごめん、なんか気に障るような事言った?ごめん!!」

「こぅら、大樹!まーた、涼香ちゃん泣かせてなんかひどい事いったんだろう!」

「違いますよ!や、そうかな?ごめん涼香。ごめんってば。」

涼香は泣き笑いしながら、うん、うん、と頷いて見せた。

切ない月日が過ぎ、卒業式当日。

二人はお互いの夢を実現するまで会わないけど、

実現したら会おうと誓って指きりをした。


   * * * 


大学を卒業して5年が過ぎていた。

涼香は看護学校を卒業し富山で2年間働いたのちに

神戸へ引っ越してきたのだった。

神戸の大学病院で働ける事になったのだ。

手紙を読み、思い出を思い返しているうちに空には大きなレモンのような

スッキリとした月が出ていて文字が読めるほどに煌々とあたりを照らしていた。

涼香は懐かしい彼の文字を指でなぞりながら

「ねぇ、あなたはまだ、私のことを好きでいてくれてる.......?」

と心の中で呟いてみた。

すると「好きだよ」と言わんばかりにカランとグラスの中で

氷が溶け大きくて綺麗な音をたてた。

「そういえば....」

涼香はある手紙を思い出した。

叔母を看病しているときに紅葉した葉を手紙に貼り付けて

大樹が送ってくれていたものだった。

「あった、あった。」

涼香は手紙を広げて月に透かして見た。

5年経ってなお美しい色を残した葉をまじまじと見ようと思ったのだ。

すると何かの文字が透けて見えた。

「あれ?」

紅葉した葉をパリパリと剥がしてみるとそこには大樹の文字でこう書いてあった。

「俺の涼香に対するイメージは始めて出会った時のカキ氷とグラスの色だよ。

 涼香は俺にとって紅葉した葉っぱみたいに温かくて綺麗なんだって思ってる。

 だから、グラスのイメージも赤と黄色にしたんだよ。」

思いがけず飛び込んできた大樹の言葉にうれしくなって涼香は大粒の涙を流した。

そして携帯を手に取ると早速大樹に電話をかけた。

「あ.....もしもし、涼香?」

「そうだよ涼香だよ。大樹覚えててくれたんだ。」

「なんか、また、もしかして泣いてる?俺、のせい.....?

 覚えてるよ!忘れる事なんてあるわけないだろ!」

電話の向こうで大人っぽくなった大樹の声が聞こえる。

「夢、叶ったんだね。今、富山なの?」

「実は....神戸だよ!」

「そうなの?ようやく会えるんだね!俺達。」

「うん.....それで、さっき葉っぱの手紙を読んでて今あの葉っぱの裏にある言葉を読んで

 うれしくなって、それで......」

「電話してきたわけか。なんだーびっくりしたよ。いきなり泣き声なんだもん。

 何かあったかと思ったよ。」

「ふふ、私大樹の声が聞けてうれしいよ。」

「あ、そう言えば!今日のお月様見た?レモンみたいでさ、すげーキレーだよ!

 実は月見て俺も涼香の事思ってた。」

「私たちどこまでも繋がってるね。」

「そう、だね....今度また、カキ氷食べに行く?」

「いいよ。」

気づくとグラスの周りには小さな水溜りができ月とグラスを映しこんでいた。

そして、夜空には二人の新しい始まりを見守るように

いっそう色を濃くして黄色いレモン月が輝いていた。








(著: 夢澤 日秋)
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Akieem Zawadi
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散歩 ・小説書・ 涙を流すこと
自己紹介:

海外のファンが多く、色彩感覚と切り取る目線がその人気の鍵。

日々の考えや恋愛、食べ物、読み物、音楽、アートとあらゆることに関してエッセー調に書き綴っている。

夢は、世界中の夕日と朝日を愛する+1と見に行くこと。世界中のあらゆる食べ物を食べ歩くこと。

 

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